Webサービスを作るとき、機能の多さより先に決めなければならないことがあります。
それは、「利用者が、使う前と使った後でどう変わるのか」です。
私、水谷侑二が無料Webアプリ「海外移住OS」を作る際に目指した変化は、海外移住について詳しくなることではありませんでした。情報を集め続けている状態から、自分の条件に合う候補、確認すべき根拠、未決定事項、次の行動を一つの計画として持てる状態へ進むことです。
この記事では、海外移住ノウハウを網羅するのではなく、なぜ情報サイトではなく「OS」として設計したのか、どのような情報設計を採用したのか、そして51秒の広告動画に何を込めたのかを、開発者の視点から紹介します。
51秒の広告動画は、機能紹介ではなく問題設定から始めた
広告動画の冒頭に置いたのは、「国には、役割がある」という言葉です。
海外移住を考えるとき、多くの人は最初に「どの国が一番よいか」を探します。しかし実際の国際生活は、国籍、生活拠点、税務上の居住地、法人、投資・資産保管、教育、余暇という複数の役割で構成されます。
これらを一つの国だけで最適化しようとすると、生活費は合うが滞在資格が合わない、税制は魅力的だが教育や医療が合わない、といった矛盾が生まれます。
そこで動画では、最初に「単一の正解を選ぶ問題ではない」と伝え、その後で海外移住OSの画面を見せる構成にしました。機能名から入るより、なぜその機能が必要なのかを先に共有したかったからです。
海外移住の難しさは、情報不足ではなく「接続不足」だった
海外移住に必要な情報は、インターネット上に大量にあります。
旅行メディアには街の魅力があり、移民局にはビザの要件があり、税務当局には居住者判定や課税制度の原文があります。体験者のブログには生活上の工夫があり、専門家には個別事情を踏まえた判断があります。
問題は、これらが異なる目的、異なる更新頻度、異なる確度で存在していることです。
一つひとつの記事が正しくても、利用者の生活、仕事、家族、資産という条件へ接続されなければ、行動は決まりません。逆に、体験談を制度上の事実として扱ったり、一般論を自分への最終判断として扱ったりすると、判断を誤りやすくなります。
海外移住OSでは、情報を次の4種類に分けることから設計を始めました。
- 政府、税務当局、移民局等が示す一次情報
- 現地生活から得られる経験情報
- 利用者本人の条件と優先順位
- 税務、法務、移民等の専門家が行う個別判断
アプリが代行できるのは、主に1と3を接続し、2を参考情報として整理し、4へ持っていく質問を具体化するところまでです。最終判断を装わないことも、プロダクト設計の一部です。

なぜ「おすすめランキング」ではなく、条件入力から始めるのか
ランキングは分かりやすい反面、評価者の前提が見えにくい仕組みです。
単身者と子育て世帯、会社員と事業オーナー、現地就労とリモートワークでは、同じ国でも意味が変わります。所得、資産、年齢、国籍、希望滞在期間によって、利用できる滞在ルートも変わります。
そのため、海外移住OSの移住先診断は24の条件から始まります。収入・働き方、滞在・移住形態、予算・所得・資産、家族・教育、ビザ・生活環境、法人・実行時期という6カテゴリーを確認し、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシア、シンガポール、香港、UAE、ジョージアの8地域を比較します。
上位候補だけでなく、中間候補や現在の条件では相性が低い候補も表示します。「合わない理由」は、利用者が自分の優先順位を理解するための重要なデータだからです。

診断を二段階に分けた理由
生活との相性と、滞在資格の実行可能性は別の問題です。
暮らしやすそうな国が見つかっても、年齢、国籍、所得、資産、就労、事業、家族、保険などの条件が合わなければ、希望する形で長く滞在できないことがあります。
そこで海外移住OSは、まず8地域を横断する移住先診断を行い、その後で国別の滞在ルート診断へ進む二段階構成にしました。
滞在ルート診断も「取得できる」と断定するのではなく、現在の回答で候補になり得るルート、追加条件や別の資格を含めて検討すべきルート、残る確認事項を分けて表示します。

日本の非居住者判定を23問にした理由
複雑な制度ほど、単純なコピーは強く見えます。「183日を超えれば非居住者」「海外転出届を出せば完了」といった説明は覚えやすい一方で、個別事情を落としやすい表現です。
日本の税務上の居住者・非居住者は、日数だけでなく、国内外の住居、職業・事業、家族、生計、資産、帰国予定など複数の事情が関係します。
海外移住OSでは、これらを23の質問へ分解しました。狙いはアプリが税務判断を代行することではありません。事情を構造化し、不確実な点と専門家へ確認すべき質問を見えるようにすることです。

読んで終わるプロダクトにしなかった
情報サービスを作るとき、記事を読んだ回数やページ滞在時間を中心に設計すると、情報は増えても意思決定が進まないことがあります。
海外移住OSでは、診断結果や制度情報を、海外移住計画へ接続します。計画に残すのは、現時点の結論、その理由、未確認事項、次の行動です。
さらに、移住前の共通56項目と該当者限定10項目、移住後の時期別チェックによって、調べたことを実行へ変えます。
「まだ決められない」を失敗として扱わず、未確認事項として保存できることも重要です。条件や制度が変われば前の判断へ戻り、更新できる。これが、記事ではなくOSとして設計した理由の一つです。


10機能を一つの流れへまとめた
現在の無料Webアプリには、次の10の主要機能があります。
- 移住先診断と対象8地域の比較
- 国別の滞在ルート診断
- 一次情報と根拠URLの確認
- 日本の非居住者判定
- 海外移住計画とPDFレポート
- 移住前・移住後チェックリスト
- 税務情報
- 法人運用コスト試算
- 海外生活サービス
- 会員向け動画講座
機能を並べること自体が目的ではありません。診断する、比較する、根拠を確認する、計画へ残す、実行する、見直すという流れが途切れないことが価値です。
無料Webアプリにした理由
海外移住を考え始めた段階では、自分が何を知らないのかさえ分からないことがあります。その時点で高額な契約や特定サービスを選ぶ前に、自分の条件と論点を整理できる共通基盤が必要だと考えました。
海外移住OSの診断・管理Webアプリは無料で、最低契約期間や自動更新はありません。
無料だから結論を簡略化するのではなく、根拠、制約、未確認事項まで見えるようにする。利用者が自分の問いを持てるようになることが、プロダクトの役割です。
開発して分かったこと
海外移住のような複雑な領域では、正確な情報を増やすだけでは足りません。
必要なのは、情報の出所と更新状態を示すこと、利用者の条件へ接続すること、結論と未確認事項を分けること、そして次の行動へ変換することです。
これは海外移住に限らず、教育、キャリア、資産、事業など、複数の専門領域が交差する意思決定にも共通する設計だと感じています。
Global Fire Clubでは、海外移住OSの10機能と具体的な使い方を網羅した海外移住OS完全ガイドを公開しています。本記事はその複製ではなく、なぜその構造にしたのかを開発・情報設計の視点から補完するものです。
海外移住OSの使い方と最新情報を公式LINEでご案内しています
「自分の場合は、どの国を比較し、どの制度を一次情報で確かめ、どの順番で準備すればよいのか」。公式LINEでは、海外移住OSを使って判断を整理するための情報をご案内しています。

水谷侑二
京都大学大学院情報学研究科で5Gに関する研究に従事し、海外3カ国の査読付き国際会議で研究成果を発表。5G関連特許の共同発明者。2022年からマレーシアやタイを中心に東南アジアで生活し、海外移住に関する情報発信と無料Webアプリ「海外移住OS」の開発を行っています。











