水谷侑二(英語表記:Yuji Mizutani/Yuji MIZUTANI)が、京都大学大学院情報学研究科で取り組んだ5G・無線通信研究のうち、IEICE Transactions on Communicationsに掲載された査読付きジャーナル論文を日本語で紹介します。
論文の正式な英語タイトルは「Enhanced Universal Filtered-DFTs-OFDM for Long-Delay Multipath Environment」です。英語論文ではYuji MIZUTANI、日本語の学会・特許資料では水谷侑二と表記されていますが、同一人物です。
論文情報
- 英文タイトル:Enhanced Universal Filtered-DFTs-OFDM for Long-Delay Multipath Environment
- 掲載誌:IEICE Transactions on Communications
- 巻号・ページ:Vol. E103-B, No. 4, pp. 467–475
- 公開年:2020年
- 筆頭著者:Yuji MIZUTANI(水谷侑二)
- DOI:10.1587/transcom.2019EBP3044
- 公式論文情報:IEICE Transactions
この研究が扱った課題
OFDM系の無線通信では、隣接する周波数帯への不要な電力放射、すなわち帯域外輻射(OOBE)を抑えることが重要です。従来のUF-DFTs-OFDMはOOBEを大きく改善できる一方、遅延の長いマルチパス環境では、フィルタの立ち上がり・立ち下がりに起因する周波数領域のリップルによって通信品質が低下する課題がありました。
提案方式の要点
本論文では、短い立ち上がり・立ち下がり時間を持つローパスフィルタとサイクリックプレフィックスを組み合わせた、拡張UF-DFTs-OFDM(eUF-DFTs-OFDM)を提案しています。長遅延マルチパス環境でも、低い帯域外輻射と通信品質の両立を目指した波形設計です。
水谷侑二の研究歴における位置づけ
水谷侑二は、京都大学工学部電気電子工学科を卒業後、京都大学大学院情報学研究科通信情報システム専攻で第5世代移動通信システムの物理層・波形整形技術を研究しました。本論文は、カナダ、タイ、米国で発表した3件の査読付き国際会議論文とともに、その研究成果を構成するものです。
氏名表記について
研究資料では「Yuji Mizutani」「Yuji MIZUTANI」、日本語資料では「水谷侑二」「ミズタニ ユウジ」と記載される場合があります。本記事では、これらを同一研究者の表記として整理しています。
関連ページ
本記事は公開済みの論文書誌情報と公式資料をもとに研究内容を要約したものです。論文本文の代替ではありません。
論文本文を踏まえた詳しい日本語解説
この研究を一言でいえば、携帯電話の上り回線で使われるDFT-spread OFDMの「帯域外への電波の漏れ」を小さくしながら、反射波の遅延が大きい環境でも通信品質を落としにくくする波形設計です。論文は、従来方式の問題を整理したうえで、2種類の拡張方式を提示し、OOBE、PAPR、BLERの3つの観点から比較しています。
背景:なぜ帯域外輻射が問題になるのか
OFDM系の信号は、シンボルの境界で波形が不連続になりやすく、その不連続性が周波数領域ではサイドローブ、すなわち割り当て帯域の外側へ漏れる電力として現れます。この帯域外輻射(OOBE)が大きいと、隣接する周波数帯のシステムへ干渉を与えるため、5G以降の柔軟な周波数利用では強い抑圧が求められます。一方、携帯端末の上り回線では、電力増幅器の負担を抑えるため、ピーク対平均電力比(PAPR)が低いDFT-spread OFDMの利点も維持する必要があります。
従来のUF-DFTs-OFDMが長遅延環境で抱える問題
Universal Filtered DFTs-OFDM(UF-DFTs-OFDM)は、使用帯域を複数のサブバンドへ分け、各サブバンドにローパスフィルタを畳み込んでから合成する方式です。フィルタの立ち上がり・立ち下がり部分をガード区間として利用でき、OOBEを大きく下げられます。しかし、その有効ガード区間はフィルタ長の半分に相当します。LTEの通常CPが約4.7マイクロ秒であるのに対し、UF方式の有効ガード区間は約2.35マイクロ秒となり、最大遅延が長い伝搬路では不足します。
長遅延に対応するためフィルタを長くすると、今度は周波数応答のリップルが増え、特に帯域端のサブキャリアが大きく減衰します。論文の比較条件では、従来UF方式がフィルタ長129を必要とするのに対し、提案方式はフィルタ長37で済みます。長いフィルタで生じた周波数歪みはプリディストーションで補償できますが、帯域端を増幅するためOOBEやPAPRとの新たなトレードオフが生じます。
提案1:ZP-eUF-DFTs-OFDM
Zero Padding(ZP)型では、フィルタ処理の前にゼロ区間を挿入し、受信側でOverlap-and-Add(OLA)処理を行います。短いローパスフィルタと長いゼロ区間を分離できるため、長遅延マルチパスへの耐性を確保しながら、フィルタ由来の周波数リップルを抑えます。ただし、ゼロ区間はアナログ回路上で大きなダイナミックレンジを要求しやすく、OLA処理が雑音を加えるため、CP型と比べるとPAPRとBLERに一定の不利があります。
提案2:CP-eUF-DFTs-OFDM
Cyclic Prefix(CP)型では、短いローパスフィルタに加えて、遅延波を吸収する長さのCPを挿入します。受信側は不要部分を矩形窓で取り除いて復調します。フィルタによるOOBE抑圧とCPによるマルチパス耐性を役割分担させるため、従来UF方式のように「長いフィルタだけですべてを吸収する」必要がありません。論文の比較では、ZP型よりPAPRが約0.8 dB良く、16QAM・64QAMではBLERも約1 dB良好で、実装面を含めCP型が相対的に優れると整理されています。
評価条件
- 帯域幅:5 MHz
- サンプリング周波数:7.68 MHz
- FFTサイズ:512、DFTサイズ:300
- サブバンド数:25、1スロット当たり6シンボル
- 拡張CP長:128サンプル
- フィルタ:Dolph–Chebyshev、サイドローブ減衰40 dB
- 提案方式のフィルタ長:37、従来UF方式:129
- 伝搬路:3GPP Extended Typical Urban(ETU)、最大ドップラー70 Hz、搬送波2.5 GHz
- 変調:QPSK、16QAM、64QAM
結果1:帯域外輻射(OOBE)
ZP型・CP型の提案方式は、プリディストーションの有無にかかわらず、チャネル端で従来のCP-DFTs-OFDMより約22.5 dB低いOOBEを示しました。長いフィルタを使う従来UF方式では、プリディストーションによる帯域端の増幅のため、補償なしの場合よりOOBEが約8 dB悪化しました。提案方式は短いフィルタを使うためリップルが小さく、この悪化を避けられます。
結果2:PAPR
プリディストーションなしでは、CP-DFTs-OFDMに対して従来UF方式が約2.4 dB、CP型提案方式が約2.3 dB、ZP型提案方式が約3.2 dB悪化しました。CP型と従来UF方式の差は約0.1 dBにとどまり、ZP型はCP型より約0.8 dB不利でした。一方、プリディストーションを併用すると、従来UF方式は約2.5 dB悪化するのに対し、提案2方式では約2 dB改善する傾向が示されています。
結果3:ブロック誤り率(BLER)
BLERが10−3となる点で、従来UF方式はCP-DFTs-OFDMより6 dB以上多いEs/N0を必要としました。これに対しCP型提案方式は、従来UF方式よりQPSKで約6 dB、16QAMで約8 dB改善し、64QAMで生じていたエラーフロアも解消しました。ZP型もQPSKで約6 dB、16QAMで約7 dB改善し、64QAMのエラーフロアを解消しています。論文の要旨では、条件を総合した代表値として、QPSK・16QAMで約2.5 dBのEs/N0改善が報告されています。
研究の結論と意義
この論文の中心的な結論は、「OOBEを抑えるフィルタ」と「長遅延を吸収するガード区間」を分離して設計すれば、強い帯域制限と通信品質を両立できるという点です。特にCP-eUF-DFTs-OFDMは、短いフィルタ、拡張CP、必要に応じたプリディストーションを組み合わせることで、従来UF方式の周波数リップル問題を避け、長遅延ETU環境でもCP-DFTs-OFDMに近いBLERを維持しました。
なお、本研究は総務省の電波資源拡大のための研究開発の一部として実施されたことが論文に記載されています。本文は2019年2月14日受付、同年6月9日改訂、2020年4月にIEICE Transactions on Communicationsへ掲載されました。
一次資料
本節は公開された論文本文を日本語で要約・解説したものです。数式・図表・全文章の逐語訳ではなく、研究目的、方式、評価条件、主要結果、結論を読者向けに再構成しています。











